「高齢者向けの映画上映会をやってみたいけど、どうやっていいのか分からない」という介護施設や老人ホームのスタッフの方々の声にお答えして、今回は、気軽にできる高齢者向け映画(DVD)の上映会の方法をステップ順に紹介したいと思います。
若い頃の思い出を想起させる映画の上映は、高齢者の認知機能の向上や維持につながるので、介護施設や老人ホームでのレクリエーションで使いたいという声が大きいようです。ぜひこれを参考に上映を実施していただきたく思います。
ステップ1 まずは上映映画を決めましょう。
施設の利用者の年齢層をもとに上映する映画を決めましょう。知られざる名作を選ぶのも悪くありませんが、利用者の満足度を高めるためには、最初は広く知られている名作映画から選ぶと良いでしょう。現在(2025年)80歳の利用者を想定すると、彼らは終戦の年の昭和20年(1945年)生まれとなります。小学生や中学生の頃は1950年代となり、映画の全盛期にあたります。当時日本中、隅から隅まで街には映画館は溢れ、邦画も洋画も活況を呈していました。1953年にテレビ放映は始まりましたが、まだまだテレビは高級で一般化していませんでした。そうした環境のなかで映画は絶対的な存在であったと言えるでしょう。またテレビで頻繁に洋画が放映されるようになったのは、1966年10月に始まった淀川長治の『日曜洋画劇場』あたりからになります。視聴率を求めて民放各局は洋画放映の番組を用意しました。現在80歳の方は、20代前半にあたりますので、こうした番組でもたくさんの洋画に触れていたと思われます。
他のコラムでもご紹介していますが、以下のような作品リストから選定すれば間違いがないでしょう。
『ローマの休日』、『カサブランカ』、『風と共に去りぬ』、『第三の男』、『雨に唄えば』、『誰が為に鐘は鳴る』、『駅馬車』、『真昼の決闘』、『自転車泥棒』、『東京物語』、『青い山脈』
ちなみに『風と共に去りぬ』と『青い山脈』は上映時間が長いので休憩時間を入れるか、または2日に分けて上映することが望ましいでしょう。
もう一点、留意したいのは日本語字幕上映にするか、日本語吹替版にするかの判断が必要です。お年をめしていて自由に字幕を読み取ることが難しい利用者や入居者の方が多いようであれば積極的に日本語吹替版を採用されることをおすすめいたします。
なお通常販売されている映画のDVDやレンタルされている映画のDVDには、上映権は付加されておりません。これらを無断で上映することは著作権法に抵触いたしますのでご注意ください。上映する場合は、著作者の許可が必要になります。非営利・入場無料の施設内上映でも原則上映権が必要になりますので留意が必要です。上記に列挙いたしました映画はいずれも弊社Bunkidoが上映権をもっておりますのでお気軽にお問い合わせください。
ステップ2 機材の準備をしましょう。
以下のような機材を事前に用意いたしましょう。
①DVDプレイヤー(またはパソコン+DVDドライブ)
当日になって起動しないなどのトラブルがないように事前に動作確認を済ませておきましょう。パソコンを使う場合は、上映途中での停止しないように自動アップデートをオフにしておくことも忘れずに。
②テレビ または プロジェクター+スクリーン
画面が小さすぎると目に負担になりますのでなるべく大きな画面を用意するように心がけましょう。10人以上の会場ではプロジェクターを使ってスクリーンに投射することが望ましいのでレンタルや購入を検討することをお勧めいたします。首をかしげたり、上や下を向かないと見えないというのは視聴する側には相当な負担を強いられます。どこからでも負担なく見られるように最適な位置に設置してください。
③音響設備を整える
上映会では映像と同様に音響への配慮も重要です。特に高齢者の方は、加齢により高音域や小さな音が聞き取りづらくなる傾向にあります。音が小さかったり、こもったりしないように留意が必要で事前にチェックをしておきましょう。後方でもしっかりと聞こえる音量にしておくのが望ましいですが、参加していない他の入居者や利用者に負担にならないように気をつけましょう。
テレビ+DVDプレイヤーで上映する場合は、比較的新しいテレビでスピーカー機能が優れているので、テレビ内蔵のスピーカーをそのまま使うことができるでしょう。古いテレビを利用する場合は、音がこもったりしていないか確認が必要です。万が一充分なクオリティに達していない場合は、外付けのスピーカーの利用をご検討ください。
10人以上のような比較的大きな規模の上映会の場合、プロジェクターでスクリーンに投射することになるケースが多いと思いますので、その際は別途外付けのスピーカーを用意する必要があります。プロジェクターにもスピーカー機能がついているものがありますが脆弱な場合が多いのが現状です。スピーカーは、スクリーンやテレビの前方に床より少し高い位置に配置すると聞こえやすくなります。
ステップ3 当日のスケジュールを組みましょう。
事前に当日のスケジュールを組んでおきましょう。入居者や利用者の負担にならないように休憩やトイレ時間を挟むなど、無理のないスケジュールを設定することが望ましいです。同じ姿勢で長時間じっと座っていると身体に負担がかかり疲れにもつながりますので最低1回の休憩は必要です。参加者にとっても事前に時間の見通しが分かれば精神的な負担を軽減できますので事前に告知しておくことは重要です。
なお『風と共に去りぬ』や『青い山脈』のように3時間を超えるような映画の場合は、最低2回の上映にわけて別の日に設定することが望ましいでしょう。
以下は90分映画を上映したときのスケジュールの一例です。
13:30〜13:50 | 集合・誘導・着席のサポート |
13:50〜14:00 | 開始のあいさつ・注意事項の説明 |
14:00〜14:45 | 映画前半 上映 |
14:45〜14:55 | 休憩・トイレ誘導 |
14:55〜15:40 | 映画後半 上映 |
15:40〜15:50 | 終了のあいさつ・感想共有など |
15:50〜16:00 | ゆっくり退席・移動サポート |
ステップ4:会場を設営しましょう。
①椅子の設置と配置
ゆったりとくつろぎながら映画鑑賞できる環境を設定しましょう。疲労につながらないように椅子は背もたれのあるものを用意しましょう。椅子の配置は前の人の頭が邪魔にならないように設置することが望まれますので、前列と後列を互い違いのように整列してみるのも良いでしょう。実際にスタッフで座ってみて最適な方法を検討するようにしましょう。また車椅子利用者がいる場合や避難時のことも考えて広めの通路を確保しておくことも重要です。通路の補助灯を用意するのも良いでしょう。
②照明の調整
映画が見やすいように照明を落とすことは重要ですが、不安になったり転倒につながったりしないように真っ暗にはしないように気をつけましょう。
③テスト上映
事前にDVDプレイヤーやパソコンで問題なくDVDの再生ができるかチェックしておきましょう。思わぬところに落とし穴があり当日再生ができないなどのトラブルを招かないようにしましょう。プロジェクターを使ってスクリーンに投影する場合は、水平を保ったりスクリーンに大きく投射できるように画面調整をするには時間がかかるので事前に入念なチェックをしておくことが必要になります。
音量が最適かということも確認してください。最適な音量で隅々までしっかり聞き取れるかをチェックしましょう。事前にテスト上映をしてみて不具合がないかを確認しておくことが大切です。
ステップ5:いざ上映。
いよいよ上映となります。みんながリラックスして観れるようにリラックスした空気をつくりましょう。最初の挨拶では上映時間や休憩時間の設定のことを伝えます。また映画の見どころなども合わせて説明して入居者や利用者の興味を喚起させましょう。
上映中は急に気持ち悪くなる方もでてくることを想定して必ずスタッフを配置しておくことが求められます。しっかりとしたスタッフ体制で上映に臨んでください。
ステップ6:上映後の一工夫。交流会のすすめ。
上映後挨拶で締めくくりますが、入居者や利用者の方の鑑賞後の感想を伺うのも良いでしょう。時間が許されるのであれば休憩を挟んで、お茶やお菓子を前に座談会などを組んで交流を高めてみてはいかがでしょうか。認知症の方や感情表出が少ない方でも映画を観たあとは自然に話したくなる気持ちが高まります。感情を言葉にするリハビリ効果が期待できるでしょう。またむかしの思い出話に発展する可能性もあります。肩肘張らずにリラックスして交流できる環境をつくれば、毎回の映画上映会を楽しみにしてくれる入居者や利用者の方も増えることでしょう。
いかがでしたでしょうか。上映設備が整っていればすぐにでも上映会の開催は容易に行えます。レクリエーションの企画のひとつとして有力な選択肢になるでしょう。上記に示しましたステップに沿って丁寧に対応すれば、入居者や利用者の方の満足度も高まり定期的な開催にもつながる可能性も高まります。ぜひこの機会に名画の上映会の検討をいただきたく思います。上映権料については、下のお問い合わせフォームよりお問い合わせください。規模に合わせて現実的な上映権料をご提示いたします。