西部劇の最高傑作であり、ジョン・フォード監督・ジョン・ウェイン主演の代表作でもある不朽の名作『駅馬車』(1939年)をご紹介します。Bunkidoでは、様々な上映形態に対応できるよう、本作の日本語吹替版および日本語字幕版をご用意しております。この機会にぜひ上映会の企画をご検討いただければと思います。
●革新的かつ初の本格的な西部劇映画
「西部劇が真剣な芸術になりうることを証明したかった。」ジョン・フォード
この映画が生まれていなければ、西部劇はハリウッドのメインストリームにならなかったかもしれないと言われています。意外な話ですが、この映画が生まれるまで西部劇は低予算での制作が可能な映画として主にB級映画や子ども向け映画として扱われていました。すでにアカデミー監督賞を受賞し、一流監督の仲間入りをしていたジョン・フォード監督は、「西部劇は子ども向け映画」という常識を覆し、西部劇で本格的な映画をつくりたいと強く願っていました。多くのスタジオは彼の企画に難色を示しましたが、唯一ユナイテッド・アーティスツが興味を示し、制作にこぎつけ、西部劇として異例のA級映画扱いとなって全米に配給されていくことになりました。
※当時は観客にお得感を与えるため「二本立て(double feature)」が一般的な興行スタイルになっており、A級映画(A picture)とB級映画(B picture)の組み合わせで構成されていました。
西部劇に革新を引き起こしたフォードの挑戦はこれだけに終わりませんでした。主演はゲイリー・クーパー(『誰が為に鐘は鳴る』『真昼の決闘』など)にするべしというスタジオ側の要求を突っぱね、フォードは、当時無名であり主演経験もなかったジョン・ウェインを主役に抜擢したのです。ジョン・ウェインの演じた朴訥で正義感が強く仲間思いの男性像は、従来の洗練された美男という主役像とは一線を画し、庶民の象徴として多くの観客に共感を与えることになりました。この映画をきっかけとしてジョン・ウェインは、アメリカの理想を体現するヒーローとなっていくわけです。
またジョン・フォードは、制作費が抑えられるためスタジオ撮影やロス近郊での撮影が一般的であった当時の常識を覆し、アメリカの原風景の象徴とも言われるユタ州のコロラド高原にあるモニュメント・バレーでロケ撮影に挑みました。自然のつくりだした驚異的な造形の壮大かつ広漠な荒野の光景は当時大きな驚きをもって迎えられ、その後の西部劇のイメージを決定づけることにつながりました。
●西部劇の枠を超えた人間ドラマとしての傑作
乗合馬車における人間模様を描いたモーパッサンの小説『脂肪の塊』に着想を得たジョン・フォードは、この映画をアパッチとガンマンという善と悪の二項対立の短絡的なアクション映画にするのではなく、人間描写と心の交流を描くことにより、より普遍的な映画にしようと考えました。乗り合いの馬車で一緒になる売春婦やアル中の医師、銀行家、軍人など、名もない人々を優しいまなざしで描きます。ばらばらだった人たちが、運命に絡み取られ、連帯を示していくさまは感動的に響きます。
●映画史に残るアクション映画の原型
アパッチ族の襲撃とその緊迫した攻防を描いた7分間はいま観ても圧倒的な臨場感で迫ってきます。効果的なカット割りや畳みかけるような編集のリズム、蹄の音や銃声音、悲鳴などの効果音によって繰り出される映像は、これが本当に1939年制作の映像なのかと疑いたくなるような躍動感とリアリティで観る者を圧倒することでしょう。もちろん、CGなどのなかった時代、すべての映像素材は危険を顧みずに実地で行われたものです。本物の駅馬車と、それを追走するインディアンが実際に疾走するシーンは、まさに圧巻です。後世の数多のアクション映画の先駆けになり、その映画術はスピルバーグや黒澤明などの作家たちにも多大な影響を与えています。オーソン・ウェルズは、『市民ケーン』で映画界にデビューする前、撮影所でこの映画をスタッフとともに数十回観たと証言しています。彼の監督した『上海から来た女』や『フォルスタッフ』の劇中で見られる卓抜なアクションシーンの数々は、この映画の影響下にあるのかもしれません。
●上映会のご提案
人間ドラマとしてもアクションとしても傑出した西部劇の最高峰『駅馬車』の上映会の企画を立ててみてはいかがでしょうか。上映権の料金については、お問い合わせフォームよりご連絡ください。上映規模に応じて、現実的な上映権料をご案内いたします。