今回はビリー・ワイルダー監督の代表作のひとつである『失われた週末』(1945)をご紹介したいと思います。
カンヌ映画祭初代グランプリ受賞、アカデミー賞主要四部門受賞の傑作
アルコール依存症の作家の苦悩と葛藤を描いた本作は、1946年のアカデミー賞において七部門にノミネートされ、監督賞、作品賞、主演男優賞、脚色賞など主要四部門を受賞しました。さらにこの年初めて開催されたフランスのカンヌ映画祭で、初代グランプリにも輝きました。アカデミー賞とカンヌ映画祭の最高賞を同時受賞した作品は、過去に四作品しかありません。
監督は、『サンセット大通り』や『麗しのサブリナ』など数多くの名画を世に送り出したお馴染みの名匠ビリー・ワイルダーです。アルコール依存に苦しむ主役を演じたのは、『ダイヤルMを廻せ』などで知られる英国出身の俳優レイ・ミランド。ミランドはこの映画の熱演でアカデミー賞主演男優賞の名誉を手中にしました。相手役には、ヒッチコックの『舞台恐怖症』で主演を演じたジェーン・ワイマンが務めました。
名匠ビリー・ワイルダーの演出へのこだわりが伝わってくる名作

『失われた週末」
本作はビリー・ワイルダー監督の初期作品にあたりますが、のちの『アパートの鍵貸します』や『七年目の浮気』のようにワイルダーが得意とする軽妙なコメディタッチの映画とは趣きが異なる辛辣なドラマです。しかしワイルダーらしい演出へのこだわりが発揮され、迫真のドラマへと結実することになりました。
殆どのシーンはハリウッドの撮影所のセット内で撮影が行われましたがそれだけでは物語にリアリティを与えることができないと危惧したビリー・ワイルダーは、実際の市街でのシーンを加えるために最小限のクルーとともにニューヨークで撮影に挑みます。本物の雑踏のなかを歩く主人公の姿を物陰に忍ばせたカメラから撮影した映像は、人工的なスタジオでは実現しない強いリアリティを映画に与えることに成功しました。また滅多に許可が下りることのない実際の病棟で撮影が許されたこともリアリティを高めることにつながりました。
作品が完成し、最初に試写にかけたときの面白いエピソードがあります。アルコール依存で苦しむミランドの姿がスクリーンに映るたびに、その演技を大げさだと感じた観客たちから笑いが巻き起こるという珍事が発生してしまいました。その状況を深刻に捉えた撮影所は一旦この映画を棚上げにする検討に入りましたが、実際に調べてみると試写でかけられたプリントの音楽は、アカデミー音楽賞を三度も受賞しているロージャ・ミクローシュのオリジナル・サウンドトラックは使用されておらず、仮にあてがわれたアップテンポのジャズミュージックであったことが分かりました。ミランドが苦悩の表情を示すたびに、その映像とは真逆の趣きであるアップテンポのジャズが流れるわけですから笑いが立ち上がってしまうのも不思議なことではありません。その後オリジナルサウンドトラックに差し替えられたバージョンの試写で笑い声が立ち上がることもなく、観客たちの反応は良好なものへと変わりました。ロージャ・ミクローシュの制作したサウンドトラックには、映画音楽として初めて世界最古の電子楽器であるテルミンが使われ、アルコール依存者の悲哀を巧みに表現することに成功しました。
アルコール依存は現在もなお身近で最も破壊的な依存症の一つであることは疑う余地がありません。精神的な強さだけでは克服することが困難だけに、この映画が描出した世界は現在性を失うことがありません。この機会に名匠ビリー・ワイルダーの傑作『失われた週末』の上映会を企画してみてはいかがでしょうか。弊社Bunkidoでは、本作の日本語吹替版と日本語字幕版をご用意しています。お問い合わせはフォームからご連絡ください。無理のない上映権料をご案内いたします。まずはお気軽にお問い合わせください。


