60年間唯一の西部劇によるアカデミー作品賞受賞作であった『シマロン』のご紹介

映画『シマロン』
映画『シマロン』

今回は、第三回アカデミー賞作品賞受賞作であり、初の西部劇の受賞作でもある『シマロン』をご紹介したいと思います。本作は、西部開拓時代の末期から20世紀前半にいたるまでのある夫婦の格闘を描いた大河ドラマです。物語は1889年、西部開拓時代のオクラホマの土地解放時の混乱する光景から始まります。主人公の夫婦はこの争いに負け、いったんはオクラホマの土地を離れますが、理想に燃える主人公の夫ヤンシーはオクラホマに戻り、不正と闘うために新聞社を立ち上げます。一方、妻のセイブラは家庭を守ることに注力します。やがて時代が変わり、不法な町も整えられ、人々の価値観も変わっていくなかで二人の人生も終盤を迎えていきます。

映画史に残る、目を疑うほどの壮大なスペクタクルシーン

映画『シマロン』

冒頭でお話をした土地収奪劇とはランドラッシュと言われ、米国政府がオクラホマの入植を解禁したものの、事実上早いもの勝ちのルールのため、多くの人々が殺到し土地収奪のようなカオスと化した出来事を指します。映画の冒頭はこのランドラッシュにおける光景から始まりますが、このシーンは目を疑うほどの壮大な光景となっています。これが100年近く前の映像かと思うと驚きを禁じえません。膨大な数の幌馬車や馬、人々が、地平線のかなたまで続いています。気が遠くなるほどの光景ですが、コンピューターグラフィックスやAIの存在しない時代、無数の馬車や馬、人々が実写によって構成されています。しかも馬車も馬具も人々の衣装もすべて時代考証に合わせて作成されたものですからどれだけの手間暇が掛かっているかと思うと眩暈を覚えるほどです。

RKOはこの映画に制作費として150万ドルという膨大な製作費を投じました。これは2015年の貨幣価値に換算すると3,180万ドルに達します。1ドル160円の通貨レートで日本円に換算すると50億円を超える巨額に相当することになります。
驚くべきことは、この巨額の製作費は大恐慌の真っただ中に行われたということです。人気作家エドナ・ファーバーの大ベストセラー『ショーボード』の映画化権がユニバーサルに買われてしまったことで慌ててもうひとつの大ベストセラーである本作の映画化権をファーバーから買い取ることになりました。爆発的な人気を誇っていた原作を入手したこと、トーキー映画への期待が膨れ上がっていたこと、新興スタジオであったRKOがメジャー入りを目論んでいたことなどが重なりこれだけの巨額の投資が実現したのでしょう。もちろん親会社のRCAの資金力のバックアップがあったことも忘れてはいけません。

この映画のために映画会社のRKOは、まずカリフォルニアの郊外の89エーカーという広大な土地を買い占め、その場所をロケ地として撮影にあたりました。

ランドラッシュのシーンで使われたカメラは実に47台にも上ります。カメラマンは28人、総勢61名もの撮影クルーが撮影に挑みました。尋常ではないカメラの数と撮影クルーの数は、やり直しの許されない一発勝負の撮影を成功させるためでした。

エキストラの数は実に5,000人を超えました。その一人一人には19世紀のデザインを正確に再現した衣装が用意されました。幌馬車の数も馬の頭数も想像を超えるほどの数で、地平線のかなたまで埋め尽くされた幌馬車や人々の姿をとらえたショットは目を疑うばかりで感嘆せずにはいられないでしょう。コンピューターグラフィックやAIのない時代、実写だけで構成されたこの映像を観るだけでも価値があります。

話はそこで終わりません。この映画は1889年からスタートしてこの映画が公開された年の前年にあたる1929年まで続きます。その描かれた40年の歴史の流れに合わせ、RKOが買い取ったこの広大な土地は物語が進むにつれて発展していくことになります。初期の設定シーンでは木造小屋が並ぶようになります。中期の設定シーンでは、舗装道路が出来、レンガ造りの建物が主流になり繁栄した町の光景が実現します。そして終盤では、自動車が走り高層ビルまで望める大都市となります。映画会社自体がどれだけこの映画に手間と費用をかけていたのかがわかります。また当時のオクラホマの町を忠実に再現しようとした美術監督のマックス・レーの貢献も忘れてはいけないのかもしれません。

約60年間で唯一の西部劇によるアカデミー賞作品賞受賞作

サイレント時代からトーキー初期にいたるまで西部劇はB級映画扱いに甘んじていました。50年代初頭までアメリカではメインの映画と低予算映画の二本立てという構成が一般的でした。つまり低予算映画を抱き合わせることでお得感を提示し観客を呼び込もうとしていたわけです。抱き合わせる低予算映画はB級映画と呼ばれていました。日本でもその影響を受けて二流・三流の映画をB級映画と呼ぶようになったというわけです。この映画が登場するまでは西部劇はB級扱いというのが習わしとなっていただけに、この映画がアカデミー作品賞を取ったことは、その後の西部劇がハリウッドのメインストリームとなることに大きく貢献することになりました。
意外かもしれませんが、その後59年間もの長きにわたり、本作以降、西部劇がアカデミー賞作品賞を受賞したことはありませんでした。ようやく1990年の『ダンス・ウィズ・ウルブズ』によって西部劇が再び作品賞を受賞することになりました。

壮大な大河ドラマから米国の近代史を通観し考察する

映画の冒頭は、西部開拓時代を象徴するようにオクラホマの地を力づくで奪い取ろうとするランドラッシュのカオスな世界が描かれていますが、オクラホマの地はそもそも安住の地としてインディアンに譲った土地であり、その先住民(ネイティブ・アメリカン)との約束を反故にして入植を進めるという米国政府の黒歴史の一部でもあります。映画は、無法なかたちで義憤に駆られた主人公の奮闘と一家を守ろうとする妻の献身的な姿を対照的に描いていきますが、物語は決して単純なハッピーエンドを用意していません。西部開拓時代の終盤、フロンティア精神に貫かれていた米国人がその後の40年において、社会の変容をどのように経験しどのように感じてきたかをいまの視点から様々に考察できる興味深い作品となっています。本作はその後に続く大河ドラマの源流となり、やがて『風と共に去りぬ』に続くことになります。

映画上映会のおすすめ

RKOの歴史的超大作である本作の壮大なセットは一見の価値があります。西部劇として初めてアカデミー賞作品賞を受賞し大河ドラマの原点でもある本作『シマロン』の上映会を開催してみませんか。弊社Bunkidoでは、本作『シマロン』の日本語吹替版と日本語字幕版をご用意しています。お問い合わせフォームからご連絡ください。無理のない上映権料をご案内いたします。まずはお気軽にお問い合わせください。

映画『シマロン』ポスター
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