今回はハリウッド黄金期の文芸映画の代表作であり、主演のオーソン・ウェルズが実質、プロディースと演出に関わった希少な映画である『ジェーン・エア』をご紹介したいと思います。
シャーロット・ブロンテの名著を映画化したサスペンスなラブロマンスの傑作
孤児として不遇に育った主人公ジェーン・エアは、古城のような邸宅の娘の家庭教師に赴任します。屋敷の主人ロチェスター(オーソン・ウェルズ)は、気難しく謎めいた男でしたが、ジェーン・エアの誠実な人柄に触れていくうちに心を許し、やがて二人は心を通わせるようになります。しかしふたりの恋路を邪魔するように邸宅では闇夜の不審火や謎の訪問者など衝撃的な結末に向かい物語は進んでいきます。
原作はシャーロット・ブロンテ(『嵐が丘』で有名なエミリー・ブロンテの姉)の手による名作で、古城や廃墟、幽霊、超自然現象など幻想世界を背景に描くゴシック小説の影響下にある作品です。そのため映画はミステリアスな展開で観るものを引き付けます。ただ単なる怪奇ものやラブロマンスものと違います。原作で描かれた通り、当時珍しかった自分を貫く女性の姿を描きながら、身分や性別を超えた自由と平等と道徳を信条とする精神を描いています。鑑賞後は、文学を読んだときのようなずしんと重い手ごたえを覚えることでしょう。
監督は英国出身のロバート・スティーヴンソンです。彼はその後、映画会社のRKOやテレビで経験を積んだあと、ディズニーに移籍し、20年で実に19本のディズニー長編映画の監督を担当しました。彼の代表作といえば、ディズニー映画としてお馴染みの『メアリー・ポピンズ』が挙げられるでしょう。スティーヴンソンは数々のディズニー映画を次々にヒットさせ、興行面で大きく貢献する数少ない監督の一人としてハリウッド映画史に足跡を残しました。
ジェーン・エア役は、『レベッカ』や『断崖』などのヒッチコック映画でお馴染みのジョーン・フォンテイン。本作では不安におびえる女性役だけでなく、自身を貫く女性を演じ切りました。ロチェスター役は、オーソン・ウェルズです。演出家としても演技者としても長く演劇に関わってきたウェルズは、傲慢でありながらも悲しみを湛えているロチェスターを演じ、エレガントなジェーン・エアとの対比を豊かに演出しています。
また無名時代に近かったエリザベス・テイラーが、ノンクレジットですが、重要な役目で出演しています。テイラーは本作の前年、『名犬ラッシー 家路』で映画デビューを果たし、好評を得たためMGMと長期契約を結ぶことになりますが、劇映画出演二作目の本作では外部映画会社である20世紀フォックスでの出演になりました。まだ無名であったことと外部の映画会社での出演であったためクレジットされなかったと推察できます。テイラーは、本作出演の後、同じ年の後半に公開された『緑園の天使』で押しも押されぬ子役スターとなり、スター街道を登り詰めていくことになりますが、まだスターとなる前の貴重なテイラーの姿が見ることができるのもこの映画の魅力のひとつといえるでしょう。
オーソン・ウェルズが事実上プロデュースやディレクションに関わった希少な作品
オーソン・ウェルズと聞いて多くの人が思い浮かべるのは、映画制作の手法に革命を起こした『市民ケーン』ですが、映画に詳しい人にはハリウッドに嫌われた彼の不遇の人生を思い浮かべる方も少なくないでしょう。ウェルズは、『市民ケーン』の興行的大失敗により、ハリウッドにおいて編集権を奪われ自由な映画制作が保証されなくなりました。公開されたウェルズの映画の多くは、彼の承認なしでズタズタに切り取られてしまいました。しかしこの映画では俳優だけでなく非公認ながらプロデュースや監督的な役割を担うことになりウェルズは珍しく自由に制作に関与することをできました。本作は、ハリウッドのスタジオとウェルズの才能が結晶した稀有な作品となったわけです。
彼の抜擢は、この映画化権と企画を20世紀フォックスに売却したデヴィッド・O・セルズニックが、ウェルズの起用を熱望したことに起因しています。ウェルズを抜擢するにはウェルズと契約しているRKOスタジオの存在が障害になっていました。しかしその懸念はじきに解消します。RKOはウェルズを厄介払いして放出したのでした。ウェルズの作品づくりへの異常な執着と彼の求める文学的なテーマは、撮影所には理解不能でした。撮影所から見ると売れることが期待できない地味なテーマに莫大な金を使う「金食い虫」としか映らなかったのでしょう。効率を重視するスタジオとしては、ウェルズの存在は経営上、危険な存在でしかなかったのです。
本編のなかに随所に見られる素晴らしい陰影表現はまさにウェルズの演出のものでした。登場人物の感情の明暗や物語の展開を光と影で巧みにサスペンスタッチで表現する演出の多くは、ウェルズのアイディアによるものだったのです。またのちにヒッチコック映画の音楽で脚光を浴びることになるバーナード・ハーマンを音楽担当として本作に抜擢したのもウェルズであり、脇役の多くは、彼が主催する「マーキュリー劇団」所属の役者たちが演じています。まさにオーソン・ウェルズの映画といっても過言ではない作品に仕上がっています。
監督やプロデューサーのクレジットを辞退したウェルズの心意気
本作の撮影中、照明からセリフ回しなど多くの演出に干渉するウェルズの言動に対して、難色や抵抗を示さず、多くのアイディアを取り込んだ監督のスティーヴンソンの穏当な態度には驚かされます。二人の監督という体制は普通であれば撮影現場を混乱させますし、干渉された監督は自尊心を傷つけられたと考えるのが一般的で大きな衝突に発展することも少なくありません。スティーヴンソンのこのような寛容な態度は極めて稀なことだと思われます。
公開前に映画雑誌はウェルズがアソシエイト・プロデューサーとしてクレジットされると報道しましたが、監督を引き受けてくれたスティーヴンソンに恩義を感じていたデヴィッド・O・セルズニックは、その報道を知って動揺とともに難色を示します。しかしその後の調査によりウェルズがセット制作、脚本の見直し、キャスティング、編集にも携わっていることを知ったセルズニックは前言を翻し契約書のなかにアソシエイト・プロデューサーのクレジットを保証する条項を付け加えました。しかしその条件を、意外にもウェルズは辞退しました。ウェルズの弁です。
「確かにわたしはプロデューサーのするべき仕事以上のことを多くしましたが、スティーヴンソンはそれを気にかけていませんでした。クレジットを取りあげることで、彼が当然受けるべき功績を奪いたくはありません」。
本作『ジェーン・エア』の映画上映会のおすすめ
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