ネオリアリズムの傑作『自転車泥棒』の上映会をしてみませんか。

自転車泥棒

イタリア・ネオリアリズモを代表する作品として、今なお世界中の映画人から高く評価される『自転車泥棒』を自主上映してみませんか。bunkidoでは、日本語吹替版および日本語字幕版をご用意しており、様々な上映形態に対応可能です。

終戦後の貧困社会のなか一人の男に降りかかる不運を通じ「救済なき現実社会の非情」を描出してみせたイタリア映画『自転車泥棒』(1948年)は、公開当時その圧倒的なリアリティに世界中の映画ファンを圧倒し米国ではアカデミー賞特別賞にも輝いています。ここ日本でも大きな話題となり、『自転車泥棒』は悲しい映画の代名詞のような存在になりました。キネマ旬報のベストテンでは外国部門一位に輝いています。

ポスター貼りという職にようやくありついた一家の主である主人公が自転車を盗まれてしまい、その自転車を取り戻すために苦闘するという極めて単純なストーリーですが、冷酷な貧困社会の現実を写し取ったドキュメンタリータッチの革新的な映画表現は、ハリウッド映画では感じたことのない感銘を与えることになりました。

敗戦後のイタリアはまだ医療保険も年金制度といった社会保障制度が構築されるまえの時代であり、弱者には非情に厳しい現実が存在していましたが、それは日本においても同様であり、イタリアと同じように敗戦国であった日本人には共感する部分も多かったのかもしれません。※注1

終戦から3年後に生まれたイタリア映画ですが、76年を経たいまもこの映画の示した問いは意味を持ち続けているのでしょうか。高度成長期を経て豊かになったはずの日本ですが、その後の「失われた30年」により貧富の差は広がるばかりです。日本における子どもの貧困率は7人に1人の割合、さらにひとり親世帯となると約2世帯に1世帯が相対的貧困状態となりOECD加盟国の38カ国中ワースト5位となっています。そればかりか社会保障負担は年々多くなるばかり。とても充分とは言えない年金受給額(国民年金で65歳の場合およそ6万円)と相まって、充分な保証を得られずに孤独死していく老人たちは後を経ちません。また小さな政府を志向するなかで行政が縮小化し社会公平性が著しく損なわれていることも無視できない現状です。2021年アカデミー賞作品賞に輝いた『ノマドランド』も中流階級の崩壊を描いていました。『自転車泥棒』が投げかけた問いは、いま現在世界においても、色褪せるどころか、アクチュアルな問いを突きつけているように感じられます。

『自転車泥棒』は、その社会的メッセージの強さばかりでなく映画表現においても新たな地平を切り開いたことで映画史に残る重要な作品と位置づけられています。まず特筆すべきはリアリティを表現するうえで出演する俳優をすべて素人にした点です。主演のランベルト・マッジョラーニは工場労働者であり、8歳のエンツォ・スタイオラも素人の子役でした。彼らの相貌には、プロの俳優では表現し得ない生活者のリアリティがあったのです。またハリウッド映画のように豪華なセットを組み立てて撮影するのではなく、自然光のもとに街角や住居、食堂や教会など生活の現場をそのまま撮影場所にし困窮する市民の生活をリアルに描出することに成功しました。ドキュメンタリー映画さながらの臨場感を表出できるこれらの手法は、その後の映画制作にも大きな影響を与えました。

格差が広がり社会公平性が失われつつある現在、多くの方にこの『自転車泥棒』をご覧いただきたいと考えます。この機会に『自転車泥棒』の上映会の企画を立ててみてはいかがでしょうか。上映権の料金についてはお問い合わせフォームよりご連絡ください。上映規模に合わせて現実的な利用料をご提示いたします。

注1.ドイツなどいくつかの例外を除くとイタリアや日本だけではなく、その他欧米諸国も第二次世界大戦の終戦後の時点ではいまのような社会保障制度が整備されておらず、終戦後10年から20年にかけて整備されていくことになりました。

『自転車泥棒』
監督:ヴィットリオ・デ・シーカ
原案:チェーザレ・ザヴァッティーニ(脚色、翻案)
原作:ルイジ・バルトリーニ
製作国:イタリア 上映時間:93分